~生活の質を高める「没頭」~『フロー体験入門』(ミハイ・チクセントミハイ)
□はじめに
皆さま、お疲れ様です。
ゲームとかにハマると、一日中やってる求道者です。
さて、本日のテーマは「没頭」について。
皆さまには、何か没頭できるような趣味はありますか?
スポーツでも読書でもゲームでも良いのですが、没頭しているときのあの感覚、なんとも言えないですよね。
どこか透明感があり、意識は集中もしているけど自由でもあり、心地よさに満ちたあの感覚。
まさに至福の時とも呼べるでしょう。
あの感覚は一体何なのでしょうか。
ということで、本日の書籍紹介です!
『フロー体験入門』
(ミハイ・チクセントミハイ)
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――たとえば、想像してみてほしい。スキーをしていて、すべての注意は肉体の動きやスキーの状態、頬にあたる風、過ぎ去っていく雪で覆われた木々に集中している。貴方の認識には争いや矛盾の入る隙はない。気を散らすような考えや感情をもっていると、雪の中に顔から突っ込むことになると、あなたは知っている。そして誰が気を散らしたいと思うだろうか。滑りは完璧なので、望むことはただ、自分自身を完全にその体験に没頭させるために、永遠にそれが続いてほしいということである。
(p39-40)
作者は心理学者のミハイ・チクセントミハイという、世界的に有名な先生です。
後述する「フロー」という概念の第一人者であり、今回紹介する本とは別のものになりますが、彼の書いた『フロー体験とグッドビジネス――仕事と生きがい』という本に対しては、ピーター・ドラッカーが「幸福と達成の心理学の基本書である」と評価しています。
□フローとは何か?
「フロー」とは、まさしく、冒頭で述べたような没頭感や、スキーの話のことを表します。
>そのことを、運動選手は「ゾーンに入った」と言い、宗教的な神秘主義者は「エクスタシー」の中にいると言い、画家や音楽家は美的な恍惚状態であるという。運動選手も神秘主義者も画家も、フローに達するときは全然違ったことをしている。しかし、彼らの体験の描写は非常によく似ている。
(p40~41)
ゾーンに入った、というのはTVのスポーツ番組などでも良く耳にしますね。まさしくあの感覚です。
□フローのメリットは?
フローのメリットを挙げるなら、まず第一に、「心地よい」というのは外せません。
好きなことに没頭している、あの感覚はいつまでも味わっていたいものです。
それ以外にも、集中することにより、「脳内ネットワークの暴走を抑える」といった効果があります。
統合失調症患者は、脳内のネットワーク(デフォルトモードネットワークといいます)が暴走し、幻聴や妄想に悩まされます。
当然のことながら、症状が重くなれば日常生活を送ることが困難になり、入院せざるを得なくなります。
しかし、この症状に、フロー体験が効いた例がありました。
下記では本書に紹介されている統合失調症患者の例です。(p59より抜粋・改編)
・10年以上統合失調症で入院していた女性患者がいた。
・彼女は普段は混乱した思考パターンと、精神疾患による感情の低さを示していた。
↓
・しかし、2週間の研究を通して、2回だけポジティブな気分を報告した。2回とも、彼女が自分の爪を手入れしている時だった。
↓
・プロのネイリストに職業訓練して貰い、他の患者の爪の手入れをするようになった
↓
・彼女の気質は急激に変化した。
・監督下ではあるが社会復帰し、その年のうちに一人でやっていけるようになった。
という事例があったそうです。
潔癖症とか精神疾患の人に作業をやってもらって、治療をするというアプローチがありますが、それの最も効果が発揮された形だと思います。
「好きこそものの上手なれ」などという言葉をよく聞きますが、没頭できるということは、このように病を乗り越え、うまく付き合っていく手段となり得る様です。
ちなみに上記では統合失調症の例をあげましたが、このデフォルトモードネットワークの暴走は、入院するような精神疾患がなくとも、我々にも(程度に差はありますが)起きることがあります。
何か困ったことや辛いことがあったとき、ずっとつらい記憶が連想されたり、悩みの無限ループに陥ったりしたことはないでしょうか?
あの思考無限ループ、感情のゴチャゴチャ感が、まさしくデフォルトモードネットワークの暴走なんです。
嫌なことがあった後に、ドライブをしたり散歩をしていたら、いつの間にか活動に夢中になっていて、悩んだ気分がスッキリしたことがあると思います。
これも一種のフロー体験です。
□フローに入る条件は?
フローに入るには、必要な要素が3つあります。
①明確な目標
(何をどのようにするのか)
②迅速なフィードバック
(自分の行動の良し悪しがわかる)
③チャレンジとスキルの一致
(自分の能力と、挑戦する行動が釣り合っていること)
です。
フローを感じることが多いと言われる、車の運転で例を挙げてみましょうか。
①の「明確な目標」「何をどのようにするか」は、自動車学校で初めて運転した時のことを思い出して頂ければわかり易いと思います。
どれくらいアクセルを踏めばどのくらい加速するのか、ミッション車であればクラッチペダルをどれくらいゆっくり放せば良いのか……おっと、交差点に差し掛かる度に、左右の安全確認をしろ、と教官に怒られる……。
なんて感じに、おっかなびっくり、わからないことだらけではなかったでしょうか。
それでも慣れてくると、アクセル、ブレーキの踏む力も適正になり、交差点では意識せずとも安全確認を出来るようになってきます。
このように、「すべきことが分かっている」のが第一条件です。
②の「迅速なフィードバック」というのは、車体が道の左端により過ぎてないか、スピードが出過ぎていないか等、自分の運転が上手にできているのか、すぐわかるということです。
③の「チャレンジとスキルの一致」は、仮免で初めて路上に出たことを思い出して下さい。
初めて公道を走ったときって、めちゃくちゃドキドキしませんでしたか?(笑)
でも免許を取ってしばらく運転していると、慣れてリラックスした運転が出来るようになりますよね。
これら3つの条件が揃えば、フローに入ることが出来ます。
□フロー体験は無限に広げられる
チクセントミハイは、フローの素晴らしい点を、「自分の行動のオーナーシップを握ること」と表現しています。
実は、フローは「自分から積極的に動かないと、感じることができない」という性質があります。
例えば、ダラダラとテレビを見てしまった時のことを思い出して下さい。
自ら意識して動いたのではなく、楽なことに流されたとき、そこにはフローに入ったあの爽快感はまるでなく、後悔ばかりが募ります。
またもう一つ重要な点として、「フローに入る活動は無限に増やす事が出来る」ということも挙げられます。
>フローは一般的に、自分の好きな時に報告される。ガーデニング、音楽鑑賞、ボウリング、ごちそうを作っているときなど。それはまたドライブや友人と話しているとき、また驚くべきことに、仕事中にも起こる。
(p46)
>人生には、しなければならないことやしたくないことがたくさんある。
(中略)
人は最も見下すような作業であっても目標を設定する事が出来る。例えば、出来るだけ早く効率よく芝生を刈ることがそれに当たる。
(p197)
>する必要のあることはなんであれ、だらだらとするのではなく、注意の集中とスキルをもって行う習慣をつけることである。皿洗い、身支度、芝刈りといった最も日常的な仕事でさえ、芸術作品を創るかのような注意を払って取り組めば、よりやりがいのあるものとなる。
(p181)
自分の好きな活動に没頭し、フローに入るのはわかると思います。
しかし、それだけでなく、面倒くさいと感じる作業でも、①自分で何か目標を決め、②上手くできたかどうかがわかり、③能力と釣り合うくらい作業の負荷を上げるか下げるかすれば、フローに入って単純な雑用も楽しむ事が出来るのです。
このように、自らの意思でフロー体験の幅を拡大していったとき、人生の質は向上する、とチクセントミハイは考えています。
今一度立ち止まってみて、自分の人生を積極的に楽しんでまいりましょう。
□おわりに
また今回ご紹介できたのは字数の関係上、本書の数%にも及びません。
この本には他にも、「人間関係と生活の質」「自己目的的パーソナリティー」「人類史におけるフローの役割とは」のような読み応えのある内容が、調査結果とともにギッシリ詰まっております。
興味の湧いた方は、是非ご入手ください。
では、また次回。
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